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サウルの息子 [映画【さ行】]

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ハンガリー映画です。
本年度のアカデミー賞授外国語作品賞・カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。 

少し前から上映されていたのですが、間に合わないかもと思っていた時にオスカー受賞。
上映期間が延びて鑑賞することが出来ました。

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アウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所。
1944年10月に実際に起きたゾンダーコマンドの反抗の日とその前日の2日間を追います。

映画が始まってすぐに気づくのは映画の画面がとても狭いこと。
フィルムの大きさが違う?
映画はワイドな画面が普通ですがこの映画は昔のテレビのような狭い画面になっています。

やがて歩き回る一人の男(ルーリグ・ゲーザ)に焦点が合います。
というより、この男以外は焦点が合っていません。
背景も何もかも他はぼんやりとぼかした画像、映し出されるのはこの男のアップばかり。

ここがどこなのかどんな状態なのかの説明もなく、セリフもありません。
胸に黄色い星のワッペンをつけた団体がトラックから降ろされシャワー室に進むように促すアナウンスが聞こえてきます。
シャワーの後は熱いコーヒーやスープ、その言葉を信じてすすむユダヤ人たち。
トラックに揺られてお腹もペコペコのはず。
そんな団体の横について一緒に進むサウル。
サウルと同様に背中に大きな赤い×印の作業着を羽織っている男たちがシャワー室の周りにたくさん集まっています。

やがてシャワー室が閉じる重い音、シャワー室というのは実はガス室でした。
水の代わりに出てくる毒ガスで断末魔の声が聞こえ始めます。

しかし、サウル達はそんな声を聴きながらもシャワー室に入る前にきちんと壁に架けられたユダヤ人たちの服を次々にフックから剥ぎ取り仕分けを始めます。
金品を抜き取ったあとの服は処分されるのでしょう。もう着ることはないのですから。
昔からなぜガス室はシャワー室だったのかとぼんやり考えていたのですが、そうか、ユダヤ人がもっている金品や宝石を確実に奪うには服を脱がせるのが一番だったんだと今回気づきました。

次にサウルはガス室に折りたたむように絶命した裸の死体を運び出します。
血や汚物で汚れた部屋をていねいに掃除していき、そしてまた次のトラックが着くと同じ事が繰り返される、そんな毎日に人間的な感情も言葉もすべて失っているようにみえるのです。

その日は、ガス室でまだ息がある少年が発見されます。
時々、まれにそんな事があるというのですが、その少年はやがてドイツ衛生兵により窒息死させられてしまいます。

お話が進むにしたがってわかってくるのはこのゾンダーコマンドと呼ばれるメンバーは収容者のユダヤ人から抜粋された人たちで、ガス室で殺された同胞の死体処理係でした。

つまりナチはユダヤ人にユダヤ人の抹殺も、死体処理も命令してやらせていたのです。
死体は焼却炉に運び焼却した後、骨は砕いて灰にして川に撒く、すべて証拠も無いように抹殺させていました。

しかしある一定期間を過ぎると、ゾンダーコマンドも口封じのために処分されてしまうらしいと噂がありました。
処分のXデーは近いとゾンダーコマンドの間では反乱や脱走の計画も練られているのですが、サウルはというとその死んだ少年の事で頭がいっぱいでした。

なぜかその少年を「自分の息子」だと言い張るサウル。

息子にはユダヤ式の葬式を行い、ラビ(ユダヤ教の宗教的指導者)に弔いの祈りを捧げてもらい、土に埋める。
ユダヤでは死体は燃やさず、土に埋めてやがて次の復活を信じる。
「息子を焼却炉で燃やしてはならない」、サウルはこの想いだけで動き始めます。

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解剖に回された少年の死体を探すサウル。
解剖を担当する医師もユダヤ人でした。
困りながらもサウルに死体を隠してわたしてくれました。

ではラビはどこにいる?収容所にはどこかにいるはずだと走り廻るサウル。
仲間たちは脱走計画の邪魔になってもただ息子の葬式の事だけに奔走し続けます。
息子の魂の再生だけがサウルの生きている証とでもいうように。

自分の危険を顧みず、狂ったように搬送者のなかからラビだという男を見つけだし、自分の服を着せて隠してかばい、脱走の日に息子の遺体を担ぎやってきた山奥。

ラビについに祈りを捧げてもらおうとした瞬間、ラビの沈黙。
祈りの言葉を知らないその男が本当はラビで無かったと察したときの落胆。
ラビを偽った男も収容所で生き残りたかったのです。

今更この悲惨なアウシュビッツの様子をみても何になるのかという人もいらっしゃるでしょう。
でも今また同じことが繰り返されないために、心に刻むことは必要ではないでしょうか。
制限された映像と、その奥から聞こえてくる音から収容所の現状を想像することを求められますがそれだけに怖くて重い映画でした。

ラストのサウルの顔に少しだけの救いも感じられる映画でした。★★★★

監督はハンガリーのメネス・ラスーロ監督、初の長編映画とのこと。 


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コメント 6

キキ

non_0101さん、こんにちは。
niceをありがとうございました。
by キキ (2016-03-27 22:06) 

キキ

coco030705さん、こんにちは。
niceをありがとうございました。
by キキ (2016-03-27 22:07) 

キキ

月夜のうずのしゅげさん、こんにちは。
niceをありがとうございました。
by キキ (2016-03-31 00:28) 

のらん

アカデミー賞作品、どっちも見応えありそうですね〜
女になりたい夫・・・ うぅぅ、しかも実話(^_^;
芸術家なら、アリなのかしら。。
そして、アウシュビッツ・・・ もともと戦争は残酷なモノだし、太古の昔から、戦争をやめられない人間っていうのも残酷なのだとおもうけれど、こういう陰湿で手の込んだ残酷さっていうのは、地上のすべての動物たちのなかで、人間だけの業なのですよね。。
by のらん (2016-04-02 10:52) 

キキ

のらんさん、こんにちは。
初めてその手術をした方らしいです。
映画での俳優さんたちより年上の40代だったそうです。
そちらも実話でこちらも実話に近い映画のようで、
証拠が抹殺されていたのでゾンダーコマンド達がこっそり映していた
写真や紙に書いて埋めていた紙などを基に制作されたそうです。
きっと個人なら出来ないことも集団になるとこんなにも残酷になれるのかと思う映画でした。
by キキ (2016-04-07 19:40) 

キキ

ネオ・アッキーさん、こんにちは。
niceをありがとうございました。
by キキ (2016-04-27 21:46) 

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