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シネマ歌舞伎 ヤマトタケル [映画【さ行】]


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映画館で鑑賞できる月イチ歌舞伎。
今年度も頑張って観ています。


「阿弖流為」は昨年2回観たのと「喜撰/棒しばり」は時間が無くてダメでしたが、「連獅子/らくだ」「東海道中膝栗毛(やじきた)」「四谷怪談」ときて今回は「スーパー歌舞伎ヤマトタケル」を観ることが出来ました。

でも色々見た中でもやっぱりスーパー歌舞伎は格別って思うんです。


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三代目市川猿之助のために哲学者・梅原猛が書き下ろし、1986年の初演で「スーパー歌舞伎」という新しいジャンルを打ち立てた「ヤマトタケル」。
三代目の甥である四代目市川猿之助が挑んだ2012年の公演の映像化です。


第12代景行天皇(市川中車)の皇子の小碓命(おうすのみこ=のちにヤマトタケル:四代目猿之助)は父・帝に対する謀反を密かに企む兄・大碓命(猿之助二役)をいさめている途中に謝って殺してしまいます。


正直に言えばいいものを、父帝には兄への名誉のため本当のことを告げずに自分が兄を殺してバラバラにして捨てたとだけを話すのです。


兄皇子を可愛がっていた父・帝はびっくりして小碓を処刑しようかとも思いますが、西国の熊襲(くまそ)を成敗してくるよう命令を下すのです。


熊襲はヤマト王権に抵抗する人々で少年の小碓には手ごわい相手。

西国に着いた小碓はヤマトからきた踊り子と称し女装して油断させ、熊襲を仕切る兄弟を殺します。

小碓ったらかなり卑怯なんだけど、それでも敵の弟健は小碓の力を称賛して『俺たちの名前を継いでほしい、これからは「ヤマトタケル」と名乗ってくれ』と頼み切り殺されます。

了承した小碓はその後はヤマトタケルと名乗ります。


熊襲を退治したヤマトタケルは「父に褒めてもらえる」と喜んでヤマトに帰るのですが、今度はすぐにも東国の蛮族を退治しろと言われます。
「どうしても父は私に死ねというのか…」と嘆きつつも、叔母である伊勢の斎宮・倭比売命(やまとひめのみこと)のいる伊勢へ立ち寄って、草薙剣という宝刀と困ったときに使いなさいと布袋にいれられた何かをもらうのです。


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その後、叔母からもらった宝刀と袋にあった火打石のおかげで東の国も成敗したヤマトタケル。


私の中ではヤマトタケルって兄ちゃんはバラバラにして殺すわ、女装して熊襲をだまして殺すわ、卑怯者的イメージだったんですけどこの舞台では父を想い、父を殺そうとした兄を誤って殺してしまってもそのことを告げられず、罰として西に東にと戦に出されるナイーブな青年になっていました。


とにかく父に認めてもらいたい、そしてヤマトの国で暮らしたい。
優しい青年のそんな悲痛な想いが後半は特に叫びとなってもう本当に切なくて切なくて。


結局生きてはヤマトの国に戻れなかったヤマトタケルは最後は白い鳥となって空高く飛んでいきます。


豪華な衣装はもちろん、シーンによって髪型も変わる細やかさ。
ラストの白い鳥はいうに及ばず、東国での火攻めにあった時の火の粉の舞いのアクロバティックな演出。
なによりも猿之助の悲痛な演技がもう見事過ぎです。


敵キャラの皆さんも家来の方々も総てが魅力的に描かれていて本当に面白くて、特に最後に戦いヤマトタケルの死の原因ともなる白い大猪たちとの戦いは壮絶です。

自分たちを山奥へと追い込んだヤマトの国への恨みと怒りで刺し違えてもヤマトタケルを殺したいと襲い掛かってくる爺ちゃんと婆ちゃんの山神さま。

熊襲もそうですけどこういった権力から虐げられた人々の哀れさもしっかり語られているのはいいですね。


最初の兄を殺すこととなった一人二役の早変わりも弟の白と兄の黒の衣装の猿之助。
映像で観ていてもどうなって入れ替わっているのかがわからないほどのあざやかさ、前半の見せ場です。


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途中休憩が2回あり、2回目の休憩でほっとしていると前の席の方がおにぎりをむしゃむしゃ食べだして、ふと時計をみたら12時半でした。
10時から始まって2/3で12時半。あまりに面白くて時間が経つのを忘れてしまっていたけどこれはやはり歌舞伎同様弁当持参でこないとダメかしらと友人と笑っちゃいました。4時間ですものね。


大阪では1週間の上演期間が終わりましたのでもう観れませんが歌舞伎を見たことがある方もない方にもご縁があればぜひどこかで見てもらいたい作品です。


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猿之助さん、骨折早く完治されますように。


映画の最初に四代目猿之助と俳優・香川照之の九代目市川中車の襲名挨拶あり。


ラストの総出者が並んだ挨拶では三代目猿之助改め二代目市川猿翁が真ん中に立ち、中車、4代目猿之助と手をつなぐ場面では過去にいろんなことがあった父と子・甥と叔父・従兄弟である三人の人生に鳴りやまぬ観客からの拍手。
親子の関係を問うこの舞台は最後の最後まで感動的でした。




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