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AMY エイミー [映画【あ行】]

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今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞映画です。

2011年7月23日、今から5年前にアルコール過剰摂取で夭折したイギリスの歌手、エイミー・ワインハウス。
ミック・ジャガーやトニー・ベネットらにその歌声を絶賛され、今もレディー・ガガ、アデルら、多くのミュージシャンに影響を与えています。

彼女の突然の死。
その謎をデビュー当時から追ったドキュメンタリ―です。
享年27歳という若さでした。

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1983年、ユダヤ系イギリス人の両親の元に生まれたエイミーは、父親の浮気での離婚という複雑な家庭環境が原因で幼いころから心に傷がある少女として成長。

でも彼女には当時の音楽プロデューサー・サラーム・レミに
「彼女の歌を聞いた瞬間、本物だと思った。まるで65歳の熟練のジャズ歌手みたいな歌い方だ。18でこれじゃ25になったらどうなるんだろうと思った。」と言わせる天才的な声がありました。

やがて18歳でレコード会社との契約、20歳でデビュー。
ファーストアルバム『Frank』は英国内では67万枚のヒットとなり、続くセカンドアルバムの『Back To Black』は全英1位、米国でも7位の1200万枚のセールスを記録。

その後シングルの『Rehab』で2008年のグラミー賞5部門で受賞。

この輝かしい経歴の裏で、彼女の私生活は荒れてゴシップまみれ。
『Back To Black』の時は女たらしと有名なと男と付き合いますが彼の方から別れを切り出され、「あなたは彼女の元に戻り、私は戻る、暗闇に」と彼との別れが歌詞に。

さらにその後別の男と結婚すると、夫は薬物中毒やアルコール依存症のとんでもない男で、その影響で彼女自身も麻薬と酒にのめり込みます。
『Rehab』は夫と共にリハビリ施設に入所したこの時の体験が元になっています。
「リハビリに行けってみんな必死だったのよ、でもあたしの返事はNo No NO」
「あたしにはそんな時間はないわけよ、パパが大丈夫だっていうなら尚更ね」
(その後、暴力事件で逮捕された夫はエイミーを捨て他の女性と結婚します。)

自分の実体験をそのまま歌詞にして歌うスタイルのエイミー。

映画では今までは知られていなかった彼女の真の姿を、たくさん残されていたプライベートビデオやエイミーの親しい友人、レコード会社関係者、両親、元夫、元恋人などのインタビューを交えて時系列に語っていきます。
世界的に有名になってしまってからは芸能記者に常に追われる姿が痛々しいです。

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2011年6月、死の1か月前、セルビアで2万人の観客を集めた野外コンサートでへたりこみ歌い出すことすら出来ないエイミー。
大変なブーイングをうけ、その後の活動中止が発表されるコンサートでしたが、彼女がその時どんな状態だったのか。

夫と共に始めた麻薬とアルコールで心身ともにボロボロ。
医師からいつ心臓が止まるかもしれないと宣言されていた事実が語られます。
その前の晩も「歌えない、歌いたくない」と言っていた本人を無理やり叩き起こして連れていったのはこれが大金が動くショービジネスの世界の恐ろしさかなと思えました。

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父親、恋人、夫はともに女にだらしない男ばかり。
みんな都合よくエイミーを利用しています。

激しい恋愛関係にボロボロになりながら、でも彼女が求めたのはそんな男たちばかりで・・・。
歌うことは好き。
でもそれよりも誰かにただ一人の人として愛されたい。
夫に嫌われないためにはなんでもやってきたエイミー。
そして命までも差し出してしまった、そんなエイミーの不器用な生き方が悲しかったです。

彼女の歌声を改めて聞きたくなる映画でした。 

現在大阪では シネマート心斎橋、 シネ・リーブル梅田にて上映中。

監督:アシフ・カパディア

 

 


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シネマ歌舞伎 歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉 [映画【さ行】]

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2015年に新橋演舞場で上演の「歌舞伎NEXT阿弖流為」を収録したものです。

シネマ歌舞伎とは松竹株式会社が制作する映像作品の名称で、歌舞伎の舞台公演を好感度カメラで撮影しスクリーンで上映するものです。

いいところは役者さんの表情、メイク、衣装のすばらしさが間近で観れること。
ライトで常に照らされてあんなにも汗をかきながら演じているのか、かなりの重労働なんだろうなと思ったりします。

残念なとこはアップが多いので全体が観れない事、映画だと拍手が出来ない事、でしょうか。
でも映画にしてはお高めの2100円のチケット代もけっして惜しくない面白さでした。
生で観たかったと思いました。

特別興行で大阪ステーションシネマにて鑑賞。

1日1回の上映で朝9時から途中10分の休憩あり、12時20分まで。
時間も長いのですけど2転3転するストーリーにドキドキです。
新感線の舞台はよく観ますが歌舞伎って観たことがないのでお話についていけなかったらどうしよう、なんて上映前の心配も吹っ飛びました。とにかく面白いし、音と光もすごいです。

日本人ですけど見得を切ってる姿にもなんだか感動。
高速の殺陣もあればスローモーションで演じるところもありで、着ぐるみのクマが出てきたり・・・。
でもこの左耳に花をおしたクマ子に最後は泣かされちゃうなんてわかんないもんですね~。

 

お話は平安時代のはじめの頃。
日本統一を目指す大和朝廷は北の民・蝦夷の討伐をもくろんでいます。
都では立烏帽子という輩が暴れており、そこに現れた正義感の強い青年・坂上田村麻呂(中村勘三郎)と、名前を失くした男・北の狼(市川染五郎)が出会い友情に似た感情が生まれます。

実は北の狼は蝦夷の長の息子・阿弖流為であり、故郷で神の使いを殺した罪で記憶を消されて追放された身の上でした。
しかし恋人の立烏帽子、鈴鹿(中村七之助)と都で偶然出会ったことで記憶が戻り、ふたりは蝦夷を守るため帰郷することになります。
一方、実はいいとこの坊ちゃんだった坂上田村麻呂。
大和朝廷軍のリーダー・日本初の征夷大将軍に任命され、阿弖流為討伐で蝦夷に向かうこととなります。
ふたりの若者の運命はどうなっていくのか、宿命の対決の日も近くなり・・・・というところです。

「千と千尋の神隠し」みたいに本当の名前を奪われるとか、「もののけ姫」みたいに神様を殺しちゃったり、ジブリのアニメの世界みたいな世界観。
平安時代って神や妖怪、もののけが人と近い関係なんですね。

お話も先が読めずいい人かと思ってた人が実は悪人だったり、北の民なのに命が惜しくて阿弖流為を裏切るただの脇役だと思っていた蛮甲(片岡亀蔵)がヒール役で大活躍。

大阪では先週で終わりましたけどこれからみれる地域にお住まいならぜひご覧ください。

 


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ブルックリン [映画【は行】]

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今年のアカデミー賞の作品賞・脚色賞・主演女優賞でノミネート。
残念ながら受賞はありませんでした。

カナダではかなりの興行成績をあげたようですし、英国・オーストラリア・カナダ・アメリカでの映画賞で数々のノミネートや受賞をしています。

日本では公開が遅かったしあまり話題にもなってはいませんが少女の心の中を等身大に描く印象的な映画でした。
原作はコムル・トービンの同名小説。
アイルランド・イギリス・カナダ合作映画です。

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春に観た映画でモーガン・フリーマン主演の「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」っていう映画のレビュー書きました。
ニューヨークのブルックリンに住む老夫婦が、結婚の時に買った古いアパートを売って便利な部屋を探すお話です。
ブルックリンの部屋は人気でかなり高く売れそうでしたが、でも結局思い出のいっぱい詰まった部屋は手放せませんでした。

その舞台でもある〝ブルックリン”はニューヨークではマンハッタンの河を隔てた向こう側、元々は移民が多く暮らす街。
この映画の主人公の少女が海を渡った頃は老夫婦が結婚した時と同時代かもう少し前くらいなのかな?と思います。

「ここは昔はそんなおしゃれな街じゃなかったのになあ」ってモーガン・フリーマンも愛犬に呟いていましたしね。

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時は1951年。
アイルランドに住むエイリシュ(シアーシャ・ロ―ナン)は幼い頃に父親も亡くなっており、病気がちの母と姉と3人暮らしです。
田舎の故郷では仕事もないし、ダンスに行っても誘われるのは美人の親友だけ、内気なエイリシュに声をかける男性もいません。

そんなエイリシュは姉の勧めでアメリカのブルックリンで働くことになります。
知り合いは姉が懇意にする神父さんだけでした。

やがて船で海を渡り、アイルランドから舞台はアメリカへ。

故郷の訛りが抜けないエイリシュ、デパートの店員をしながら見知らぬ都会で寂しさで心が折れそう。
姉に手紙を書くことだけが楽しみでしたが、イタリア人の配管工のトニーと付き合い始めたことがきっかけで都会での暮らしにも徐々に慣れ始め、目標の簿記の資格試験にも無事に合格。

全てが上向きになってきたころ、最愛の姉が亡くなったという知らせを受け取るのです。

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トニーには1か月ほど故郷に戻ると告げて姉のいない実家に帰ると、故郷はそのままでしたが自分を見る周りの眼が変わっていました。

もうエイリシュは内気で冴えない田舎の少女ではありません。
姉が勤めていた会社で経理の仕事もテキパキこなし、アメリカの洗練されたファッションを身に着けすっかり都会的の女性と変わったエイリシュ。
以前はスル―されてた故郷の男性も声をかけてきます。 

実はトニーとアメリカを出る前に結婚届を提出してきていたエイリシュでしたが、母には結婚していることは隠したままです。
母はアイルランドの男性と結婚してほしい様子で、なにかと理由をつけてアメリカに帰るのを延ばさせます。

アメリカに行く前にこんな環境だったら・・・仕事があって、親友もいて、素敵なお金持ちの男性から結婚してほしいと望まれて。
トニーの元に帰らなきゃと思う反面、今の生活も捨てがたいと考え始めるエイリシュ。

彼女が選ぶのはアイルランドなのかブルックリンなのか。

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都会の暮らしと故郷の両方を無意識に天秤にかけているようなエイリシュの姿は女性なら共感できるけど男性が観たらどう思うのかしら。ずるい女なのかな。
ふたりの男性はそれぞれ誠実な人だけにドキドキです。

田舎は美しい自然があるけど煩わしい人間関係もあり、都会では便利な暮らしがあるけど家族との暮らしはない。
そんなエピソードが最初から最後までとっても丁寧に描かれています。
ラストで意地悪な雑貨屋のおばちゃんに放つエイリシュのセリフにも「あーわかる」って思ってしましました。

主演のシアーシャ・ロ―ナンはアメリカ生まれのアイルランド育ち。
ご両親もアイルランド人。
相変わらす青い目は引き込まれそうでかわいい。
主人公の成長と、ファッションも田舎と都会で比べたりで見どころの一つです。
美少女のシアーシャも今回はすっかり大人の女性の雰囲気です。

監督はジョン・クローリー 

 

 


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シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ [映画【さ行】]

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マーベル・コミック原作の「キャプテン・アメリカ」シリーズ3作目です。
「アベンジャーズ・エイジ・オブ・ウルトロン」から1年後のお話となります。

元々そんなに好きなジャンルではないし、アメコミにもうそろそろ飽きてきたかな・・・なんて思って観に行きましたがごめんなさい、ストーリーもアクションもすごく面白かったです。
やはり続けてみることは大切ですね。
それにしてもマーベル映画、恐るべし。

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出来れば各シリーズ(キャプテン・アメリカ、アイアンマン、アベンジャーズ、アントマンなど)は多めに観ておいた方がいいです。
登場人物の性格とか生い立ちがわからないとこの映画だけだとわからない部分も多いかもしれません。

「アベンジャーズ・エイジ・オブ・ウルトロン」の戦いのあと、キャプテン・アメリカ=スティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)率いるアベンジャーズはナイジェリアでヒドラの残党と戦っていたが、自爆を図ったヒドラメンバーを阻止しようとしたワンダ(エリザベル・オルセン)の超能力で一般市民が巻き込まれ多数の死者を出してしまう。

このことにより世界から批判を浴びることとなったアベンジャーズ。
常人を超えたヒーローやスパイから結成されたアベンジャーズを国連の管理下に置き、無許可での活動を規制しようという動きが出てくる。

同じ頃、過去のアベンジャーズの戦いで犠牲になった息子をもつ母親から責められたアイアンマン=トニー・スターク(ロバート・ダウニ―・Jr)。
ショックをうけたアイアンマンは国連の指示に賛成。
しかし、キャプテン・アメリカは「自分たちで判断し行動する権利が奪われる」と署名には反対、アベンジャーズを代表するアイアンマンとキャプテン・アメリカの二人の意見が真っ二つに分かれてしまう。

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やがてオーストリアのウィーンでアベンジャーズを国連の管理下に置く「ソコウィア協定」 の署名式が執り行われることとなる。
しかし署名式会場で爆弾テロが発生してしまい、演説中のワカンダ国王がその犠牲となる。

テロの犯人としてバッキー・バーンズ=ウィンター・ソルジャー(セバスチャン・スタン)が国際手配となるが、バッキーはキャプテン・アメリカの親友であり幼馴染。

バッキーを信じるスティ―ブは洗脳状態から覚めたバッキーの話しを聞き、シベリアにもバッキーとは別のウインター・ソルジャーが冷凍保存で眠っていることを知る。
彼らの復活と新たなテロを阻止するため、キャプテン・アメリカはファルコン(アンソニー・マッキー)、ホークアイ(ジェレミー・レナー)、ワンダ、アントマン(ポール・ラッド)たちと航空機を奪ってシベリアに飛ぼうとする。

しかしそんなこととは知らないアイアンマンは、ウォーマシン(ドン・チードル)、ナターシャ(スカーレット・ヨハンソン)、ウィジョン(ポール・ベタニー)、ブラックパンサー(チャドウィック・ボーズマン)、スパイダーマン(トム・ホランド)らと飛行場で激突するのだった。

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飛行場での内戦〝シビル・ウォー”の映像はものすごいです。
君たち意見が分かれたとしても仲間でしょ?と思うくらい本気モードで壮絶。
でも基本いい人対いい人の戦いなので怪我人は出るけど死人は出ません。
ソーとハルクがいないのはこの二人がいたら内戦くらいじゃすまないからでしょうね。

さて、今回からアベンジャーズに参戦したアントマン、スパイダーマン、ブラックパンサー。

アリさんとクモさんと豹さんなんですけど・・・笑、アリさんはお笑い担当ってとこでしょうか。
アイアンマンにはスル―されるし、戦いの中にも笑いがこみあげます。

クモさんは「白鯨との戦い」でも書きましたけど今回大抜擢の可愛い男の子です。
高校生って感じが本当にかわいい~。
ストーリーではトニー・スタークがニューヨークでヒーロー活動をしていた彼を自宅まで訪ねてスカウトしてきての参戦です。
実はスパイダーマンは映画化権の問題があっておなじマーベル原作でもアベンジャーズへの出演は今までは難しいかったのですが今回は交渉がうまくいって出演となったのです。めでたいです。

ブラックパンサーはウィーンでのテロで亡くなったワカンダ国王の息子、つまり戦う王子様なんです。
父を殺した憎きウィンター・ソルジャーに復讐するために黒い猫のようなスーツでいきなり出てくるんですけど、あんたそのスーツどこでこしらえたの?と思ったのは私だけ?得意技は引っ掻きのようです。

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最後の最後にキャプテン・アメリカとアイアンマンは和解か、と思わせての番狂わせ。
実はバッキーは他にも良からぬことを・・・という秘密が暴かれ、どんどんストーリーは複雑になっていきます。
過去の積年の恨みが彼らを苦しめるんですね~。

家族を殺されて復讐したいのは敵も味方も王子もみな同じってとこです。
アイアンマンが好きな私としては傷だらけで一人ぼっちのトニーがかわいそう・・・。
一方、アメリカという国名をも背負って立つ正義のヒーロー、キャプテン・アメリカはあちこちで今回もモテモテです。

映画が終わっても今回も明るくなるまで座っていてくださいね。
お決まりのおまけ映像は2回あります。
なので最後にスパイダーマンが再び出るまで座っていてね。★★★★☆

監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ

これ参考になるよ!

 


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レヴェナント 蘇えりし者 [映画【やらわ】]

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アメリカでは有名な実話で小説にも映画やTVドラマにもなった、ちっちゃい子でも知っているお話なのだそうです。

アメリカの西部開拓時代に生きた罠猟師、ヒュー・グラスにレオナルド・ディカプリオ。
見事アカデミー賞主演男優賞受賞です。

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復讐劇ではありますが、2時間半の映画、実は過酷なサバイバルシーンがほとんどです。

1823年・アメリカの北西部、極寒の荒野で狩猟をしては毛皮を採取するハンターチームはネイティブアメリカンのある種族に襲われ、船で川を渡り逃げだします。

弓矢で攻撃され大勢の犠牲者を出し、さらに執拗に命を狙われ追われるハンターチーム。

やがて船を捨て山越えで追手を避けて逃げますが、道に詳しいガイドのヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオ)がクマに出会い瀕死の重傷を負ってしまいます。

グラスの怪我をみて、もう長く生きられないと思った隊長のアンドリュー・ヘンリー(ドーナル・グリーソン)は一緒に逃げるのは無理だと判断します。

グラスを死ぬまで見届け、手厚く埋葬もしてくれるなら報酬を出すと隊員に話すとグラスの息子のホーク(フォレスト・グッドラック)と若いジム・ブリッジャー(ウィル・ポールター)が一緒に残るといい、報酬金目当てでフィッツジェラルド(トム・ハーディ)が名乗りをあげます。

ハンターチームが去った後、フィッツジェラルドはまだ息があるグラスをさっさと殺して埋めようとしますがそれを止めに入った息子のホークを先に殺してしまいます。
息子が殺される様子を見ながらも身動きが出来ないグラス。
ホークを殺した後、グラスを土に生き埋めにしたフィッツジェラルドは、ブリッジャーを連れて逃げ出します。

置き去りにされたグラスは息子の復讐を誓い、土から這い出します。
やがて折れた足を引きずり這いながら極寒の地でフィッツジェラルドを追いかけはじめるのです。

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グラスはネイティブアメリカンの妻がいましたが、息子が小さい頃に白人に殺されるというシーンが何度も回想で出てきます。現在の息子は成長していてポスターに描かれているかわいい男の子は思い出のシーンの一コマでした。

グラスはクマに喉も食い破られるのでそれからはセリフも少なめ、背中も腹も傷だらけ。
クマはCGらしいのですがクマの息がカメラにかかって白くなるというシーンがあってその細かさに驚かされます。

クマに襲われるシーンはすごく怖くてけっこう長めです。
ついでにいうと毛皮の狩猟チームなので最初っから皮を剥がれた動物たちがごろんごろん出てきますのでこういう生々しいシーンが苦手な人は要注意の映画です。

土から這い出した後は荒野で食べものを探し、追手から極寒の川に逃げたり、丸太に掴まって流されたり、血が滴る動物の生肉に食らいつき、川から取った魚をそのまま丸かじりする・・・よくディカプリオもこの仕事うけたよね、ベジタリアンなんだってね・・・と思って口が半開きになって観てしまいました。
こりゃアカデミー賞主演主演男優賞もらわないと。

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この映画で監督のアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督は昨年の「バードマン」に続き2年連続でアカデミー賞監督賞を受賞するという偉業を達成。2年連続なんて正直びっくりでした。

でも撮影賞のエマニュエル・ルベツキはなんと3年連続の受賞ですからね、もうものすごいスタッフ揃いの映画な訳です。

ルベツキは前回は継ぎ目がないような撮影スタイルで話題になりましたが、今回は厳しい氷の大自然の風景をみせてくれます。
空の色もなんともいえないくらい美しく、1日のうちに数時間しかないマジックアワーと呼ばれる黄昏時にこだわった結果とのこと。
撮影はカナダで行われたそうですが、こだわった撮影スタイルで長引いた結果雪がなくなって、季節が反対の南米に移動して撮影が続けられたので9か月もかかったのだといいます。

そしてその自然の前には絶えず苦痛で顔が歪むディカプリオのアップです。
レオは首を絞められ、水に沈められ、ナイフで刺され、クマに食われ、体中から血を流し、口からは泡を吹いてますからもう痛そうで寒そうで。
死んだ馬の内臓をナイフで取り出してその中に入り、馬の腹から顔を出す、この寒さから身を守るシーンは夢に出てきそうなインパクトです。

坂本龍一の音楽が苦しくなるくらい追い詰められた感で迫ってきて素晴らしかったです。
でももうこんな苦しい映画は2回は観たくないなというのが正直の感想です。 

白人たちのネイティブアメリカンたちに行った非情な歴史もしっかり描かれていて胸が痛みました。★★★★

 


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リップヴァンウィンクルの花嫁 [映画【やらわ】]

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岩井俊二監督作品で、BSスカパーで6話のストーリーと、それとは別の完結で映画、になっているそうです。
TV版の1話だけを無料放送で観たのですがとても不思議なお話。
ネットでなんでも買えちゃう時代。ネットで人がつながると思いたい時代。
映画も観てみたくなり映画館へ駆け込みました。今週の金曜までで終了しそうだったので・・・。

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黒木華さんってすごく綺麗な女優さんだけど、お姫様役より品のいいお手伝いさんのほうが似合うって感じがしますよね。
この映画は岩井監督が黒木さんのために書いた脚本のようですけど、後半メイド服で豪邸の掃除や家事をする黒木さん。
やっぱり監督もそう思うのかな。
あ、でもウエディングドレス姿も2回見せてくれます。

ストーリーは、2016年、派遣教師の七海(黒木華)はネットのお見合いサイトで知り合った鉄也(地曳豪) との結婚を決める。しかし彼に七海は小さな嘘をたくさんついている。

親が離婚していること、本当は仕事はクビになってしまったこと。
さらに結婚式で自分側の親戚の数を水増しするために、ネットで知り合った安室(綾野剛)という男に代理出席を頼んでいること。
その嘘はなぜかすべて鉄也の母親(原日出子)にばれており、さらに浮気の濡れ衣も着せられ、今までついていた嘘のせいで言い訳も出来ないまますぐに離婚となってしまう。

鉄也と住む家を追い出され、実家にも帰れず、仕事もない七海はどこにも行く当てがなく泊まっていた安ホテルで働きだす。
そこにまた安室からの電話がかかってくるのだった。

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七海が頼りにする安室という男、いい人そうで、そうでもない。

自称、俳優。そしてなんでも屋。
頼まれれば子供の相手もするし、結婚式の親戚の調達も、お金さえもらえば若い夫婦を離婚させる事もする・・・そう、七海の離婚も実は安室が鉄也の母から依頼されて行ったお仕事の一つ。

子離れしていない鉄也の母は七海の事が嫌いで罠をしかけて離婚させたのだけど、安室は自分が仕掛け人だということは言わず彼女を心配するかの如くつかず離れずフォローしていく。
(なんで鉄也の母の依頼も七海の依頼も都合よく全部安室が請け負うのかっていうのが無理がある設定の様な気もする。)

安室の仕事っぷりはそつがなく、きめ細やかで、悪事は悟られず、七海にはその後お弁当を差し入れしたり、仕事を紹介したり。
七海のことが好きなのかと思ってみてたら、実は危険な仕事をやらせていたり。
嫌な奴だとは思っていたけど最後にはあきれ果ててしまいます。
そんなあやしい男に綾野剛さんは本当にぴったり。

中盤、安室の依頼で自分の結婚式でも頼んだ代理出席、結婚式の親戚役のバイトを引き受けることになる七海。
「この結婚式の新郎さ、実は妻帯者なんだって」と、とんでも情報をそっと教えてくれる姉役の里中真白(Cocco)。

真白との出会いで七海の運命はまた変わっていく、というより別の世界に連れていかれてしまうんですが、真白の母役があのシンガーソングライターのりりィだったなんてエンドロールで知ってこれまたびっくりでした。
りりィさんって私が知らないだけで実はたくさんドラマや映画にも出演されてたんですね。

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で、タイトルの「リップヴァンウインクル」って何のこと?
映画館のカウンターで間違えずに言えるのかドキドキしちゃいましたよ。

岩井監督の家のご近所にあるアパレルメーカーの名前から取ったそうですけど、その元々は19世紀に発表された短編小説のタイトルでもありその小説の主人公の名前でもあるのだそう。そうか、人の名前だったのか、ってなっとく。

小人に森の奥に誘われて酒を飲み、やがて眠ってしまったリップ・ヴァン・ウインクルという男。
目が覚めたら20年の時間が経ってしまっていたというアメリカ版浦島太郎のようなお話。

映画『野獣死すべし』で松田優作さんが刑事の室田日出夫さんに銃を突きつける時にこのお話しをしたとかで優作ファンには有名なんだそうです。(松田優作は目をぐわって見開いて話してるから超怖い。)
時代遅れの人、眠ってばかりいる人という意味もあるようですね。

Cocco演じる真白と共に都会の豪邸という竜宮城に迷い込んでいく七海。
七海は毒を持つ魚がうようよの竜宮城から無事に現在に戻れるのでしょうか。

この映画、かなり長い、3時間です。
七海の生徒の女子高生も、鉄也の母も、一見優しそうに見えて実は意地悪な人がたくさん出てきます。
主人公があまりにふわふわしてて人を疑うことを知らない人なのでAVに売られちゃうんじゃないか、殺されちゃうんじゃないかと最後まで心配でしょうがなかったですね。
でも予想がつかない展開が面白かったです。TV版も続きがみたいなあ。 ★★★★


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ルーム [映画【やらわ】]

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エマ・ドナヒューの小説『部屋』が原作です。
原作では5歳の男の子の目線で語られていくようです。

高校生だったジョイ(ブリー・ラーソン)はある日、見知らぬ男の納屋に連れ込まれそのまま閉じ込められ、そこで7年間監禁されていました。

その間男の子も出産、息子の5歳の誕生日をこの狭い部屋で迎えていました。
息子のジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)と二人で見上げる天窓。
薄暗い部屋のドアは外からカギがかけられ出ることは出来ません。

ふたりの毎日は軽い運動をしたり、TVを観たり。
時々犯人のオールド・ニックがやって来る恐怖の日々。
でもやがて二人は脱出を試みます。
犯人も捕まり、ジョイの実家に帰りもう安心かと思われた脱出のあと、ここからがまた新たな二人の戦いが始まるのでした。

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監禁された部屋で一人で出産!そして子育て?
考えただけで恐ろしい状況。
5歳の誕生日を迎える息子ジャックに自分の出来る限りの知識を与える若き母親。
ジャックの存在がジョイの生き甲斐になっているというシーンです。

そのジャックを手放すことになるかもしれない脱出劇・・・息子が死んだと犯人に嘘をつき外に出させて助けを呼ぶ・・・は身を切られるような大きな賭けだった訳です。

しかしジョイはそうやってつかんだ自由<外の世界>に押しつぶされそうになるとは思いもしなかったわけで、すっかり変わってしまった監禁前と今との現実に戸惑い、やがてマスコミが押し掛け身動きが取れません。
事件の被害者に優しくない世間のあり方にジョイの精神は病んでいくのです。

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映画では息子の母への愛で立ち直っていく様子で終わりますが、こんなに可愛いジャックがやがてもっと大きくなったその時にまた新たな壁は現れるんだろうと思わずにはいられませんでした。

ジェイコブくんの可愛さが主演男優賞ものです。
お母さん役のブリー・ラーソンが今回みごとアカデミー賞の最優秀主演女優賞を受賞しましたけどそれを助けたジェイコブくんの力は大きいと思います。

監督;レニー・アブラハムソン 

同じような事件の報道には胸が痛みます。
こんな想いは誰にも起こってほしくないと願わずにはいられない映画でした。 


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ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります [映画【な行】]

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アメリカのロングセラー小説の映画化。モーガン・フリーマンの制作・主演です。 

『ドライビングMissデイジー』『ショーシャンクの空に』『セブン』『ディープインパクト』という数えきれない名作に出演。
『ミリオンダラー・ベイビー』では助演男優賞を獲得、安定感のある名わき役のモーガン・フリーマンが夫。

『アニー・ホール』でアカデミー賞主演女優賞を受賞。
ウディ・アレンのパートナーとしてアレン監督の多くの映画で活躍、アレン監督と別れたのちも数々の映画に出演するダイアン・キートンが妻を演じるちょっと豪華なキャストのほんわかした映画です。

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結婚40年を迎えた画家のアレックス(モーガン・フリーマン)とルース(ダイアン・キートン)はニューヨークのブルックリンの眺めのいいアパートメントに住む仲の良い夫婦。

足が弱って5階の部屋に上り下りが辛くなった夫のために、妻は結婚と同時に買ったこの古いアパートを売りに出し、エレベーター付きの便利な家を買おうと思っています。
内覧会が始まるといろんな家族がやってきて、ぜひ私たちに売ってくださいと頼みこむアメリカ式の売買が面白い~。

内覧者は希望金額と共に「自分たちにとってどんなにこの家が必要なのか」を手紙に書いて持ち主に渡します。
もちろん一番高額な人が購入する確率がぐっと高くなるんですが手紙を読んで相手を選ぶこともあるみたい。

妻は今のアパートを売る準備と同時に、住み替え物件も探しにいきます。
そこでさっき自分のアパートに内覧に来ていた親子と出くわして、「でもおじさんの家の方が素敵よ」なんておしゃまな女の子に言われちゃって、やっぱり売りたくないなあと夫は思うのです。
でもやる気満々で熱心な妻にそんな事は言えやしない、黙ってうしろをついていく夫。

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そんなこんなで忙しい中で愛犬ドロシーが病気になってしまいます。
子供のように可愛いがるドロシーを慌てて動物病院に連れていくふたり。
でも道路は大混雑、どうやら近所でテロ騒動が起きているようなのです。
 
動物病院の医師に「CTって先生、おいくらくらいかかるんですか?」と現実的なことを聞いてしまう夫。
「値段なんか聞いちゃって、高かったら止めるの?」って三角な目をするのは妻。

さてさて、ふたりは新しい家を手に入れることが出来るのか・・・。

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持ち家を売るって本当に大変な作業なんです。
経験があるんでその時の事を思い出しながら観てしまいました。

映画のアパートはとってもお洒落な場所にあるので買い手はすぐにゾロゾロやってきます。
もちろん冷やかしもいるみたいなんですがね。
でもテロがご近所で起こちゃったもんだからそんな危険地帯ならって値段が下がりそうな気配もあり・・・。

速攻で素敵なエレベーター付き物件を見つけた妻はすぐにでも今の家を売りたいと言いだし、
売りたくないと言えない夫、どうするのでしょう、昔の思い出にふけっている場合じゃないんじゃない?

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ダイアン・キートンの大ファンだというモーガン・フリーマンの夢もかなって出来上がったこの映画。
モーガン・フリーマンのやりたいことリストにはダイアン・キートンとの共演、そしてダンスを踊ることというのがあったそうです。

そういえばジャック・ニコルソンとの共演で「最高の人生の見つけ方」って映画がありましたよね。
余命6か月の男二人が人生でやり残したことを叶えていくストーリー。
想いがかなって良かったね、モーガン・フリーマン。

ブルックリンの海が見えるこんな素敵なお部屋、憧れちゃいます。
住まなくてもいいけど内覧会には行ってみたいな。
こんな素敵な夫婦の姿にも憧れちゃいますね。 ★★★★


 


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サウルの息子 [映画【さ行】]

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ハンガリー映画です。
本年度のアカデミー賞授外国語作品賞・カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。 

少し前から上映されていたのですが、間に合わないかもと思っていた時にオスカー受賞。
上映期間が延びて鑑賞することが出来ました。

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アウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所。
1944年10月に実際に起きたゾンダーコマンドの反抗の日とその前日の2日間を追います。

映画が始まってすぐに気づくのは映画の画面がとても狭いこと。
フィルムの大きさが違う?
映画はワイドな画面が普通ですがこの映画は昔のテレビのような狭い画面になっています。

やがて歩き回る一人の男(ルーリグ・ゲーザ)に焦点が合います。
というより、この男以外は焦点が合っていません。
背景も何もかも他はぼんやりとぼかした画像、映し出されるのはこの男のアップばかり。

ここがどこなのかどんな状態なのかの説明もなく、セリフもありません。
胸に黄色い星のワッペンをつけた団体がトラックから降ろされシャワー室に進むように促すアナウンスが聞こえてきます。
シャワーの後は熱いコーヒーやスープ、その言葉を信じてすすむユダヤ人たち。
トラックに揺られてお腹もペコペコのはず。
そんな団体の横について一緒に進むサウル。
サウルと同様に背中に大きな赤い×印の作業着を羽織っている男たちがシャワー室の周りにたくさん集まっています。

やがてシャワー室が閉じる重い音、シャワー室というのは実はガス室でした。
水の代わりに出てくる毒ガスで断末魔の声が聞こえ始めます。

しかし、サウル達はそんな声を聴きながらもシャワー室に入る前にきちんと壁に架けられたユダヤ人たちの服を次々にフックから剥ぎ取り仕分けを始めます。
金品を抜き取ったあとの服は処分されるのでしょう。もう着ることはないのですから。
昔からなぜガス室はシャワー室だったのかとぼんやり考えていたのですが、そうか、ユダヤ人がもっている金品や宝石を確実に奪うには服を脱がせるのが一番だったんだと今回気づきました。

次にサウルはガス室に折りたたむように絶命した裸の死体を運び出します。
血や汚物で汚れた部屋をていねいに掃除していき、そしてまた次のトラックが着くと同じ事が繰り返される、そんな毎日に人間的な感情も言葉もすべて失っているようにみえるのです。

その日は、ガス室でまだ息がある少年が発見されます。
時々、まれにそんな事があるというのですが、その少年はやがてドイツ衛生兵により窒息死させられてしまいます。

お話が進むにしたがってわかってくるのはこのゾンダーコマンドと呼ばれるメンバーは収容者のユダヤ人から抜粋された人たちで、ガス室で殺された同胞の死体処理係でした。

つまりナチはユダヤ人にユダヤ人の抹殺も、死体処理も命令してやらせていたのです。
死体は焼却炉に運び焼却した後、骨は砕いて灰にして川に撒く、すべて証拠も無いように抹殺させていました。

しかしある一定期間を過ぎると、ゾンダーコマンドも口封じのために処分されてしまうらしいと噂がありました。
処分のXデーは近いとゾンダーコマンドの間では反乱や脱走の計画も練られているのですが、サウルはというとその死んだ少年の事で頭がいっぱいでした。

なぜかその少年を「自分の息子」だと言い張るサウル。

息子にはユダヤ式の葬式を行い、ラビ(ユダヤ教の宗教的指導者)に弔いの祈りを捧げてもらい、土に埋める。
ユダヤでは死体は燃やさず、土に埋めてやがて次の復活を信じる。
「息子を焼却炉で燃やしてはならない」、サウルはこの想いだけで動き始めます。

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解剖に回された少年の死体を探すサウル。
解剖を担当する医師もユダヤ人でした。
困りながらもサウルに死体を隠してわたしてくれました。

ではラビはどこにいる?収容所にはどこかにいるはずだと走り廻るサウル。
仲間たちは脱走計画の邪魔になってもただ息子の葬式の事だけに奔走し続けます。
息子の魂の再生だけがサウルの生きている証とでもいうように。

自分の危険を顧みず、狂ったように搬送者のなかからラビだという男を見つけだし、自分の服を着せて隠してかばい、脱走の日に息子の遺体を担ぎやってきた山奥。

ラビについに祈りを捧げてもらおうとした瞬間、ラビの沈黙。
祈りの言葉を知らないその男が本当はラビで無かったと察したときの落胆。
ラビを偽った男も収容所で生き残りたかったのです。

今更この悲惨なアウシュビッツの様子をみても何になるのかという人もいらっしゃるでしょう。
でも今また同じことが繰り返されないために、心に刻むことは必要ではないでしょうか。
制限された映像と、その奥から聞こえてくる音から収容所の現状を想像することを求められますがそれだけに怖くて重い映画でした。

ラストのサウルの顔に少しだけの救いも感じられる映画でした。★★★★

監督はハンガリーのメネス・ラスーロ監督、初の長編映画とのこと。 


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リリーのすべて [映画【やらわ】]

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「ヘイトフル・エイト」は観客が男性ばかりだったんですが、この映画の観客は女性ばかり。
そりゃ、英国男子俳優で超人気のエディ・レッドメインが主演ですもんね。

エディ・レッドメインは昨年は「博士と彼女のセオリー」で難病のホーキンス博士を見事に演じてオスカー獲得。
で、今回は世界で初の性転換手術をした男性を演じるなんて・・・攻めてきますよね~。
もう、まったく守りに入っていません。

と、いうのもこの映画の脚本がエディに渡ったのは「レ・ミゼラブル」(12)の頃だったそうです。
この映画も「レ・ミゼラブル」の監督のトム・フーバー監督なんですが、レミゼでマリウスを演じている時に今作の出演を打診されて、脚本を読んですぐにやりたいと伝えて、その後4年経ってますけど途中「博士・・・」でオスカー受賞して、オスカー受賞作の次回作としての公開になったらしいです。

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お話は1926年頃のデンマーク・コペンハーゲン。

画家のアイナー・ベイナー(エディ・レッドメイン)は妻で肖像画家のゲルダ(アシリア・ビカンダー)と暮らしていました。
彼が描くのは物悲しい荒涼とした風景の絵。
画家として認められ人気もあったのですが、妻のゲルダの方は今一つテーマに詰まっていました。

そこでゲルダは夫に人物画のモデルになってもらいます。
夫に女装させて女性の肖像画を描くのです。
そうしているうちにアイナーは自分の中に眠るもう一つの自分に気づいてしまう。
少しづつ少しづつ、妻にも内緒で女性としての時間が増えるアイナー。
やがてアイナーは女として生きたい、本来の性を取り戻したいと願い始めるのです。

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エディ・レッドメインは男性としてはかなり細い方だと思うんですがやっぱり女装したら、ごつい。
口もデカいし肩も広い。
でも所作がどんどん女性になっていきます。

女装させた旦那を連れてパーティに出かけるゲルダ。
「旦那の従姉妹のリリーなの」、と紹介するけどデカすぎない?これバレちゃうでしょ?と、私的にはこんなとこでドキドキ。
でもそれがバレないんだな、不思議に。

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ばれないどころか逆にイケメンたちの熱い視線を感じてドギマギするリリー。

そこで出会ったベン・ウイショー演じるヘンリクにキスをされた時には鼻血がぶわーっと出ちゃうの。
あの瞬間はアイナーが死に、リリーが体に定着した瞬間かと思われます。
悪いもんが出ちゃうと言うのか、もう男には戻れないって感じでしょうか。 

ベン・ウィショー、彼もイケメン英国男子、「007」のQ役でも人気でホントに最近見る映画にはよくよく出てるけど今回も脇役ですごい存在感。
英国イケメン俳優同士のラブシーン、フーバー監督も攻める攻める。

ヘンリクはリリーが女性じゃないって見抜いているのに「貴女はアイナーだよね?」って言ってキスするんですね。
つまりヘンリクはゲイなんですけど、リリーの方は女性としてヘンリクに恋をするんです。

で、その後いろいろあってかなり時間も経ってから女性になる手術をしたのちに、またリリーはヘンリクに会いに行きます。
でも彼はゲイですからね、女性じゃなくて男性が好き。
「え、君、本当の女性になったの?」だって。
うわ、そうきたか。
まったく恋はままならぬものです。

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ところで一方、旦那に「私女になりたい!」と言われた妻はどうしたもんだか。

演じるのは「コードネームU.N.C.L.E」で可愛いヒロインを演じてたアシリア・ビカンダー。
この演技で今年のアカデミー賞助演女優賞を受賞しちゃったんだからすごい。

「コードネーム・・・」で観た時はお人形のように綺麗な女の子だったけど、ここではドンと大きくみえるのが不思議。
やっぱりこのエディ・レッドメインとの夫婦演技合戦に勝ち抜くためには気合がいるんでしょう。

最初は妻は「私が女装させたから?」って驚くんだけど、実は小さい頃からそんなことがあって幼馴染の男の子にキスされたことがあるんだとか告白されちゃうのね。

結果、ゲルダはリリーをモデルにした絵でパリで画家として認められるわけで、逆に夫は全く描けなくなっちゃう。
でも「私は画家になりたいんじゃない、女になりたいの」って言われちゃうとね、元夫の願いをかなえてあげるしかないじゃない。
たとえ夫が男とチューしてるのをみてびっくりポンだったとしてもです。

さて、この時代、リリーのような人は精神病院に入れられちゃうんです。
そこでドイツの医師が性転換手術をやってみない?って言いだします。
でもこれが前例のない手術でもあり命をかけての手術なんですよ。

今すぐ女になりたい、手術したいと自分のことでいっぱいの元夫をガッツリ支える妻、ゲルダのなんと男前なこと。
でも、じゃあ私は?私だって夫が必要なのよってちょっと弱くなる時に流す涙とかもあって、なかなかぐっときてお見事でした。

ラストはかなり切ないです。
80年前の実際にあったことが元になってます。 実物は40代だったらしいのですけど。★★★★


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