SSブログ

狩人の夜 【DVD】 [映画【か行】]

641427.jpg

TUTAYAの“100人の映画通が選んだ本当に面白い映画。”の1本。
とっても怖くて、美しくて。これは忘れられない映画になりそうです。

1955年制作のアメリカ映画。モノクロ。
1953年発表のディヴィス・グラッブのベストセラー小説を映画化。

大恐慌の嵐が吹き荒れるアメリカで、ベン・ハーパー(ピーター・グレイヴス)が銀行強盗を犯す。
家に戻ったベンは幼い息子ジョン(ビリー・チェイピン)と娘パール(サリー・ジェイン・ブルース)に奪った1万ドルを見せ、妻ウェラ(シェリー・ウィンターズ )にも内緒でどこかに隠すことを伝える。
そしてジョンに「妹を守ること、お金の場所を誰にも喋らず将来の為に使うこと」を誓わせる。
その直後ベンはジョンたちの目の前で警官に捕えられ連行されてしまう。

ベンが収監された刑務所には車の盗難罪で収容された偽伝道師ハリー・パウエル(ロバート・ミッチャム)がいた。
実はハリーは神の正義の名の下に十数人の未亡人たちを殺害している殺人鬼であったが殺人罪については未だに誰にもばれてはいなかった。

ハリーは強盗殺人罪で絞首刑になるが、収監されている時に寝言で「小さい子供がそれらを導く」という旧約聖書の言葉を呟いていた。
その声を聞いたハリーはきっとベンの子供たちが金の隠し場所を知っていると直感、刑務所を出所したその足でベンの住んでいた町に伝道師として現れる。
町の住民に言葉巧みに取り入り、やがてベンの未亡人ウェラと再婚するハリー。
しかしハリーの企みを知ったウェラはハリーに殺され、ジョンたちにも危険が迫ってくる。
亡き父との誓いの通り、妹とお金を守り川を舟で逃げるジョンの行く手にはハリーの影がどこまでも追いかけてくる。

やがてジョンとパールは、信心深い老婦人のレイチェル・クーパー(リリアン・ギッシュ)に保護される。
しかし居場所を知ったハリーはここにも現れ、ジョンとパールの父だと名乗りレイチェルに近づいていくのだが…。

d0117645_15424011.jpg

当時、興業的にも評価的にも失敗してしまい埋もれた作品になってしまったようなんですが、しばらくしてその価値が再発見された映画です。
どのくらい失敗だったかというと、この映画の結果に失望した監督のチャールズ・ロートンは再び監督をする意欲を無くしてしまったほどでした。

ロバート・ミッチャム演じる殺人鬼ハリーの右手にはLOVE(愛)、左手にHATE(憎悪)が刺青されています。
この強烈な印象を与える刺青のキャラクターはその後、スパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』、マーティン・スコセッシ監督の『ケープ・フィアー』で模倣されます。
最近の作品ではコーエン兄弟監督の西部劇『トゥルー・グリット』、この映画は『狩人の夜』のオマージュ作品でもあるのだとか。そうかと思うと改めて見比べてみたくなりました。

また、F・トリュフォーやホラー作家のスティーブン・キングが絶賛したため、カルト的な人気を得て再評価されています。

3861.jpg

舟で川を下り逃げる子供たちを必ず見つけ出してしまう殺人鬼ハリー。
まるでどこまで逃げても追いかけてくる大型タンクローリーとの恐怖を描いたスピルバーク監督の『激突』(1971)を観た時のような怖さがあります。

先に観客には「大金を隠したのはパールが持っているお人形であること」が明かされているので殺人鬼ハリーにいつ知られてしまうのかをジョンの目線でドキドキ見守ったり、ハリーの凶悪さは最初のシーンから「ふしだらな人間が多すぎて、全員殺すことができません」と神と会話させたりこれでもかと異常性を伝えているので未亡人ウェラの哀しい運命が先に暗示されていて、これも怖い。

月の夜、子供部屋に大きく映る見知らぬ男の影。
ボートで逃げて隠れた牛小屋の上から観た美しい星空と地平線に現れる馬に乗った追手の姿。
何故わかるんだろう、何故そうしてしまうんだろう、早く撃ってしまえばいいのに。
ストレスが積もっていきます。
モノクロ映画なのに蛙や梟や兎、猫、夜空の星や月も美しく、ろうそくの灯りが消えると犯人も消えてしまう視覚効果も巧みで、水に流される死体の金髪まで幻想的で美しい。

血が飛び散ったり殺人現場が映し出されることは決してなく、心理的に怖がらせる映画でした。
聖歌503番「主の御手に頼る日は」という賛美歌を「頼れ、頼れ、キリストに頼れ…」と何度もハリーは歌うのですがラスト近くでは敵として子供たちを守るために対峙するレィチェルとも一緒に合唱するシーンは印象的です。

1940年前半より1950年後期までの主にアメリカで制作された犯罪映画をフィルム・ノワールというそうです。
ロバート・ミッチャムの演技を是非一度、ご覧になってください。 ★★★★★

d0117645_154319.jpg

監督;チャールズ・ロートン(『情婦』など出演。アカデミー主演男優賞受賞俳優でもあります。)


nice!(6)  コメント(10)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 6

コメント 10

月夜のうずのしゅげ

殺人鬼の伝道師とは恐ろしいですね。
模倣されるほど濃い映画だったのですね。
by 月夜のうずのしゅげ (2012-06-03 08:19) 

キキ

月夜のうずのしゅげさん、こんにちは。
そうなんです。怖いし綺麗だし参りました。
その後の映画に影響を与える映画というのも納得です。
TUTAYAで旧作100円でレンタルしたのが申し訳ないくらいです。

by キキ (2012-06-03 10:06) 

non_0101

こんにちは。
これは怖そうですね~ 観るのに勇気が要りそうです。
追いかけられるのって一番怖いですよね。
「羊たちの沈黙」の時は、2日連続で悪夢に出てきました^_^;
by non_0101 (2012-06-03 18:50) 

キキ

マチャさん、niceありがとうございます。
by キキ (2012-06-03 19:35) 

キキ

non_0101さん、こんにちは。
追いかけられる兄妹がとっても可愛い子達なんです。
レンタルした時は実は期待してなかったんですけど(^.^;)
やられました。
悪夢ですか、私は「リング」の続編の「らせん」みた後、
夢見ました。
あと、「ハンニバル」は勘弁してくれと思いました。
by キキ (2012-06-03 19:50) 

coco030705

こんばんは。
心理的な恐怖感を描く映画は好きです。ヒッチコックが大好きなんで。
このごろ全然DVDを観ていないので、一度こういう作品を観てみたいものですね。(でもDVDだとすぐ眠くなっちゃうんですよ。困ったもんです。)
(笑)
by coco030705 (2012-06-05 21:53) 

キキ

coco030705さん、こんにちは。
このジャンルの映画がお好きならお勧めですね。
私も最近DVDレンタルはしてなかったんですけど
たまたまロバート・ミチャッムの眠そうな表紙の眼差しと
眼があってしまいました。^.^
私は映画館でもよく寝てしまいます。
DVDだと巻き戻しが出来るんですが…困ったもんです。
by キキ (2012-06-06 06:03) 

クローヴ

この映画の完成度の高さに時代が追いついてなかったのかも
しれませんね。
手の刺青、怖すぎ(^。^;)
観てみたいです。
by クローヴ (2012-06-09 23:57) 

キキ

クローヴさん、こんにちは。
そうですね、当時アメリカでは他の注目作品が沢山あったみたいで話題にならなかったようです。
そしてその後TVで放送されていくうちに良さが見直されたみたいです。
「となりのトトロ」もそうですよね。
是非一度観てください。^.^
by キキ (2012-06-10 00:15) 

キキ

あゆこさん、niceをありがとうございます。
by キキ (2013-04-01 21:28) 

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。